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映画『凶悪』感想

素晴らしい映画だとは思うけれども、嫌な気分にさせられる。そんな映画だった。

山田孝之×ピエール瀧×リリー・フランキーの怪演

映画『凶悪』の最大の魅力は、出演者たちの演技です。
話のあらすじとしては、死刑囚・須藤純次(ピエール瀧)が3件の余罪と首謀者である「先生」と呼ばれる男(リリー・フランキー)について記者・藤井修一(山田孝之)に告白したことから始まり、事件にのめり込んでいく藤井と次第に明らかになっていく事実を描くというもの。

軸となるのは山田孝之ピエール瀧リリー・フランキーの3人。この3人の演技が本当にヤバい。
↓このリリー・フランキー悪人面すぎるでしょ。
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映画『凶悪』公式サイト
まずピエール瀧。暴力団員ということで、分かりやすい悪人というポジションとして描かれています。刑務所で仲良くなったというケンちゃんの出所祝いということで好きな女をあてがってやるって言った後に自分の妻を選ばれて険悪になるシーンとか本当に震えた。急にキレるシーンとかも上手いなあと。

次にリリー・フランキーね。何が『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』だよってカンジの狂気っぷり。じいさんに笑いながらスタンガン当ててるシーンやばすぎ。あと、法廷で須藤と見つめ合うシーンの、本当に自分は悪くないと思ってる風のきょとんとした顔も。

この2人の悪人にくらべると一見地味なのが山田孝之
序盤はピエール瀧に圧倒されてる一記者という位置づけなんですが、須藤と「先生」の行った異常な事件を追求していくうちにそれにのめり込んでいく様子が真に迫ってましたね。で、見どころは後半改心していく須藤に対して吠えるシーン。そこまで溜めて溜めてのアレですよ。

モントリオール映画祭に出展されるとのことですが、何かしらの賞は取るんじゃないでしょうか。演技系の部門で。あと、日本アカデミー賞とかも受賞しそう。

監督・白石和彌のやりたかったこと

さて、監督の白石和彌はこの映画を通じて観客に何を伝えたかったのでしょうか。
色々な解釈があると思いますが、僕はこの映画を見て、ニーチェのあの有名な言葉「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」を思い出しました。

象徴的なのが次の2つのシーン。
藤井が事件の取材にのめり込んでいく時、妻に「楽しかったんでしょ」と言われるシーンがまず1つ。そしてラスト、リリー・フランキーの演じる「先生」に「本当に私を殺したいと思っているのは、須藤でも被害者でもなく…(お前だ)」と言われるシーン。
この2つ言葉は藤井に向けてるのではなく、「死刑因が告白した史上最悪の事件」を描いたと宣伝されているこの映画『凶悪』を見に来ている我々にこそ向けられているのではないでしょうか。

冒頭の一文は、作品自体が嫌なのではなく、この作品を楽しんでる自分が嫌だなと思わされたという意味で書きました。

他の映画との比較

それにしても日本の映画監督ってこういうの撮らせたらピカイチですよね。ちょうど去年アメリカ映画としては『アルゴ』や『ゼロ・ダーク・サーティ』なんかが話題になりましたが、実際の事件を扱った映画でも、人物を掘り下げていくというよりストーリーやインパクト重視なイメージがあります。まああんまり細々した心理描写を描いても向こうでは受けないのかもしれませんが。『ゾディアック』なんかは単純なホラーではなく、人間ドラマを描こうとしてたように思いますが、溜めと爆発がないので長いだけの退屈な映画になっちゃってましたし。
そういえば『凶悪』見てて『誰も知らない』を思い出したりしましたが、あれで柳楽優弥が最年少で男優賞とったときのパルムドールが『華氏911』だったと思います。その2つを比べても実際の事件を基にして映画を作るときの日米の方向性の違いが出てて面白いですね。

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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